「心臓の音でも聞かせてもらいますか」ここまでは、他の病室での会話と同じだ。しかし、その後がちょっとちがう。彼女は老いさらばえ、肋骨がボコボコと浮き出ている。乳房はしわしわになって、もうほとんど厚みがない。その上に、乳首が申しわけなさそうにちょこんと乗っかっている。俗に言うところの洗濯板に干しぶどうだ。ぼくはひととおりの診察を終えると、おもむろにその乳首を軽くつまんで引っ張る。そうすると、彼女は「ひ
自分の胸を叩くようにして喜びを現わした... の続きを読む
営業部にとって頭が痛いことの一つに四半期ごとの会議があります。全国の営業担当責任者が本部に集められてそれぞれの業務報告を行い、これから先について話し合うということになります。このとき主に利用される分析データは本社が統一的に作成されたものということが多いです。各自の報告に関しては各自で作成しますが、全社的なもの場合は統一的に作成されているようです。ただしそれらの中には現場と少しあわないようなものもあ
BIツールによって現場からの要望にも対応... の続きを読む
翌日から、彼女の治療が始まりました。予想どおり、それは厳しい闘いとなり、数日たった頃から、彼女は目に見えて消耗していきました。一時的には白血球数が減り、病的な細胞は少なくなったものの、正常な白血球は、なかなか増えてきません。いったん輸血で増えた血小板も、時問とともに再度下降。ひたすら輸血を繰り返す、いたちごっこになりました。「悪いところなんて全然なく入院したのに、完全に病人になってしまった」自覚症
抗がん剤の引き起こす副作用... の続きを読む
自殺念慮を訴える患者と向き合うとき、大事なことは、その訴えの重みを十分に受け止めることと、治療者が重く受け止めたということを本人にしっかり伝えることです。企図のイメージを具体的に語らせるというのも、そのための一つの手段であるわけです。「自殺しないと約束させる」という方法を勧める人もいますが、私はあまり用いません。なにか情に訴える仕方が嘘くさく、偽善的に感じられるからです。治療者は、患者さんにとって
自殺念慮を訴える患者と向き合う... の続きを読む
M医師は、一年間の約束でこの霧多布の診療所にやってきた。「僻地医療に生涯を捧げよう、そんな使命感に燃えてやってきたわけではないのです。教授の命令で仕方なく、というのがほんとうのところです」それが、二年になり三年になり、とうとう四十年がたってしまった。はじめの数年間、毎年春が近づくと、妻のTさんはいそいそと荷造りをはじめた。「今年こそは札幌に帰れる」と信じた(かった)からだ。だがいつも、「すまないが
一年の約束が四十年がたつ... の続きを読む